三楽

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三樂文庫

陰翳礼讃

2021.06.14

陰翳礼讃の他、懶惰の説、恋愛及び色情、客ぎらい、旅のいろいろ、厠のいろいろが含まれる。

いずれも谷崎潤一郎のものの見方と、

五感から得る意見にいちいち感心、納得させられる。

また、この当時(明治、大正、昭和)の文学者たちは谷崎氏に限らず、

歯に衣着せぬ物言いがとても新鮮。そうでない自分が疎ましく思える。

さて、本題、

日本の住宅において「電気」の普及により「便利さ」と引き換えに

失われるもの、多い事多い事…

「厠」のくだりは特に感じる。

-繰り返して云うが、或る程度の薄暗さと、徹底的に清潔であることと、蚊の呻りさえ耳につくような静けさとが、必須の条件なのである。私はそういう厠にあって、しとしとと降る雨の音を聴くのを好む。殊に関東の厠には、床に細長い掃き出し窓がついているので、軒端や木の葉からしたたり落ちる点滴が、石灯籠の根を洗い飛び石の苔を湿おしつつ土に沁み入るしめやかな音を、ひとしお身に聴くことが出来る。まことに厠は虫の音によく、鳥の声によく月夜にもまたふさわしく、四季おりおりおりの物のあわれを味わうのに最も適した場所であって、恐らく古代の俳人は此処から無数の題材を得ているであろう。されば日本の建築の中で、一番風流に出来ているのは厠であるとも云えなくもない。

「厠」に行くまでのわずかな距離に家の内外、庭の設え、ほの暗さ、月夜、季節、匂い、雨の音、虫の音…

「陰翳」に通じる日本独特の”間”と「とき」がそこにある。

 

旅の話も多い。

この当時の長距離移動手段でお気に入りは夜行列車。

夜中に出発してお昼前に到着。

闇夜は寝てやり過ごし、明け方からそれぞれ地方の景色が目に車窓に映り

この上ない旅路が始まる…

 

どの章をとっても谷崎潤一郎の繊細な表現で、その美意識に惹き込まれていく。

だが内容は、昭和初期の話だが、過去を識り、当時を憂いている部分も多い。

「陰翳」が壊される文明を憂いているようだ。

 

1965年に没しているが、彼ほどの洞察力を持つ人なら、

現代の日本をよもやわかっていただろうか?

 

カバー写真は、谷崎がこよなく愛した潺湲亭(現:石村亭

陰翳礼讃
  • 三樂文庫No:028
  • 著者:谷崎潤一郎
  • 出版社:中央公論新社
  • 発行日:1975年10月10日

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文章・写真: 三樂編集部