三樂文庫
天下城 下
2021.09.21
天下城は、織田信長によって建造された「安土城」。
主人公、戸波市朗太の集大成とも言える石垣普請の城郭であり、
織田信長の「天下布武」を象徴する壮大な規模の「天下城」が出来るまで、
そして、その後50歳で息を引き取るまでの始末が記されている。
天正11年(1583年)12月、信長の死と安土城炎上から1年と半年後のことだった。
晩年、訳合って穴太を出た後、堺の町で細々と屋敷の石垣を積んだりした余生を過ごす中、宅に奥行き4間、幅3間の庭を作る。
本文より
ある冷え込んだ朝、市郎太は庭を見たいと千草に言って、縁側の板戸を開けさせた。
千草は最初、拒んだ。この寒気は身体によくない、と。
市郎太は、もしその庭に信濃や近江のように雪が降るならば見たいのだ、と強く迫った。
この庭を造って、まだ自分はそこに雪が降る情景を見ていない。
降るような空模様であればなおのこと、見せてくれ、と。
千草はけっきょく折れて、板戸を開けたのだ。
そののち、このときの寒気が災いして息を引き取ることとなる。
市朗太は、自分の造った庭をかすかに眺めていたはずだ。
何を思っていたのか?
そして「穴太衆」の技術を高め、結束を深めた一郎太の「天下城」の普請は、
安土桃山時代から江戸初期まで数々の「石積みの城」を築城させることとなる。
天下城 下
- 三樂文庫No:042
- 著者:佐々木 讓
- 出版社:新潮社
- 発行日:2004年3月30日
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文章・写真: 三樂編集部