三樂文庫
リアスの海辺から
2021.07.14
著者は宮城三陸リアス式海岸の漁民です。
気仙沼湾に注ぐ大川上流の山に、漁民の手で広葉樹の植林を行い、海を元気にしようという運動
「森は海の恋人」作戦の代表です。
現在もNPO法人としてその活動は現在進行形です。
NHK連続テレビ小説「おかえり モネ」では、気仙沼市の漁業と登米市の林業が舞台となり、
百音の妹、未知は家業の牡蠣養殖を担おうと地元で懸命に勉強中。
一昨年、ちょうどこの舞台となるコロナ感染前の気仙沼市大島を訪れた。
夕食後に、激震に合われた宿の女将さんが震災とその後のご苦労の語り部をしていただいた。
「森は海の恋人」と重なる。
森と海の関係性は言うまでもなく親密で、島国日本では、健康的な森林を抱える地から、
川を経て海に注ぐ水は、海の豊かさを産む源です。
そう言えば、この旅の早朝、島のお寺の墓地でニホンカモシカに遭遇した。
この書籍タイトルの「リアス」がスペイン語の「入り江」の語源から、著者がスペインを訪れた後半の記述が
よかった。
私も2019年に仕事で「ア・コルーニャ」を訪れた。
少し遅い時間帯に到着し、レストランで「魚料理」に舌鼓を打ったのは記憶に残る。
また、仕事後に巡礼の町、「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」大聖堂も閉園ギリギリの夕方に見学が出来た。
聖書に登場する聖ヤコブの墓があり、多くの巡礼者の目的地として、また私達のような観光客と共に賑わっていた。
著書に出てくるスペイン造船所の技師長の話から、
「無敵艦隊=アルマダ」の軍艦を一隻作るのに、樹齢100年の樫の木が2,000本必要で、16世紀後半は戦乱で130隻もの軍艦を
保有するにあたり、乱伐に次ぐ乱伐で森が消えていったそうです。
そして18世紀にはオーストラリアから持ち込まれた「ユーカリ」が、成長性が早く有用な木材として植林され
ガリシア地方の海岸に広がった。
しかし、ユーカリの葉の毒は、他の植物を生えさせないという性質を持っているため、単一林になってしまい、養分の吸収が強いこと、燃えやすい気なので山火事の危険にもさらされ危機感を持っている。
ガリシア地方本来のロブレ(水楢)、カスターニャ(栗)、くるみなどの落葉広葉樹の森は、その養分を海に注ぐ、
(El bosque es mama del mar=森は海のおふくろ)
まさに母なる森のリアス海岸であった。
興味深い内容はさらに続くが、
これを書いている間に静岡県熱海市では、多くの雨と違法な盛土による土砂災害が起きてしまいました。
最悪な結果です。
被害に合われた方々にお見舞い申し上げます。
自然に対して敬意を払い、人が暮らすことに拠るさと山、さと海が豊かであるように、
一方通行の行いは慎まなければいけません。
- 三樂文庫No:032
- 著者:畠山重篤
- 出版社:文藝春秋
- 発行日:1999年5月20日
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文章・写真: 三樂編集部