三樂文庫
自然な建築
2022.09.01
この書の自然素材のテーマは、水、石、竹、土、和紙。
それぞれを使った建築の経緯(いきさつ)が興味深い。
「石」の章では、
栃木県那須芦野町に「石の美術館」について。
設計の依頼から
職人さんとの相対、
完成までの様々なエピソードが米の石蔵を
美術館に変えた。
20年ほど前に訪れたことがある。
日光の手前の大谷石は有名だが、那須の芦野石の存在はこの「石の美術館」で知った。
石を使った水や光の取り込みに感心する。
隈研吾氏のことをこの頃知ることになったと思う。
「和紙」についての章も興味深い。
新潟県柏崎市高柳町に造ったコミュニティー交流施設、茅葺の「陽の楽家」の紹介。
手漉きの和紙職人さんの手により、柿渋とこんにゃくを塗って、
風雨や気温湿度の境目に位置する只者ならぬ和紙を纏う住宅。
この和紙は先の大戦で「風船爆弾」として使用され、日本から偏西風に乗せて遥かアメリカ本土まで辿り着き
死傷者も出した。
忌まわしい兵器に使用されるも、7700kmもの距離をこんにゃく糊を塗布した9000個余りの和紙の気球が飛んだことに驚く。
他にも、「竹」の章で、
万里の長城近くの住宅建設における現場担当(若き建築家)のインドネシア人ブディの判断など、
興味の輪が広がるばかりの内容に、自然素材の弱さや欠点を乗り越え、隈氏のあくなき挑戦が続く…
最近は「目がテン」の里山「かがくの里」の母屋修復を依頼されている。
どのような建物になるか楽しみだ。
- 三樂文庫No:086
- 著者:隈 研吾
- 出版社:岩波書店
- 発行日:2008年11月20日
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文章・写真: 三樂編集部